投稿

2024の投稿を表示しています

連作短編『コロコラムスク』の文学フリマ出品

イメージ
本ブログで公開中の コロコラムスクを舞台とした連作短編(全11編) を、 2025年1月19日の京都文学フリマ に出品します。 京都文学フリマ (入場無料) 日時|2025年1月19日(日)11時〜16時  場所|みやこめっせ1階、第2展示場 ブース|け-39(下鴨ロンドの本棚) https://bunfree.net/event/kyoto09/ 出品物は、 作品発表時の雑誌レイアウトを模した形 で印刷しました。 このあたりの詳しいいきさつは、別の場所(note)に書いています。 文フリ初心者の奮闘記

連作短編『コロコラムスク市の尋常ならざる話』(1929)航海士そして大工 全訳

▷『コロコラムスク市の尋常ならざる話』と題されたイリフ&ペトロフによる連作短編の第11話(最終話)。全訳。 ▷ コメンタリーはこちら 。 ▷2025.1.13 改訳更新。 _______  前代未聞の危機が、生きものすべてを凍えさせる逆旋風のごとく巻き起こって、コロコラムスクを通過した。数少ない商店や定期市の露店から、革がすっかり姿を消してしまったのだ。クロム革が消えたかと思うとキップ革も消え、靴底の在庫すら底をついてしまった。  まる一週間ものあいだ、コロコラムスクの人びとは不審がっていた。不幸のとどめとばかり、市場から防水布が姿を消したときには、彼らはすっかり気落ちしてしまった。  幸いなことに、危機の原因はまもなく判明した。判明したのはとある祝日のことで、その日は「脱・握手」協会の会長である市民ドロイ=ヴィシュネヴェツキイに敬意を表し、彼が握手の根絶の仕事に従事して五年になるのを祝う日であった。  式典は、町でいちばんの建物である軍用朗読・歌唱教室のホールでひらかれた。町の組織代表者らはレッドカーペットを歩いて次々ステージへと上がり、挨拶の言葉を述べ、祝福を受ける者に贈りものを手渡していった。  「脱・握手」協会の六人の同僚たちは、ベルトと持ち手のついた、燃えるように赤いキップ革の書類カバンを六つ、愛するボスに捧げた。  友好団体「脱・文盲」協会からは、会長バリュストラードニコフが代表して、興奮ぎみの主賓に対し、ワニ柄の型押しをしたクロム革の書類カバンを十二個贈った。  主賓はお辞儀をしては礼を述べていった。マンドリンのオーケストラが、ひっきりなしにファンファーレを演奏していた。  警察署長のオトメジューエフは、勇ましいガラガラ声でてきぱき挨拶すると、この英雄に、剣とリボンをあしらった防水布製の書類カバンを四つ手渡した。  消防司令官、炎のメラーエフも面目を失わずに済んだ。本当のところ、彼は運が悪かった。初動が遅く、式典のことを思い出したときには革はすでになかった。ところが、メラーエフはこの試練に打ち勝ってみせた。彼は大きなホースを切り分け、類まれなるゴム製の書類カバンを作りあげたのだ。数ある書類カバンの中で最良のものだった。目下の仕事と大組織の記録をまるごと収められるほどに、そのカバンはよく伸びた。  ドロイ=ヴィシュネヴェツキイは涙を流していた。  町の商...

連作短編『コロコラムスク市の尋常ならざる話』(1929)第二の青春 全訳

イメージ
▷『コロコラムスク市の尋常ならざる話』と題されたイリフ&ペトロフによる連作短編の第10話。全訳。 ▷〔〕は訳注。 コメンタリーはこちら 。 ▷2025.1.13 改訳更新。 _______  コロコラムスクにミヤマガラス 〔春告げ鳥〕 が飛んできた。  それは晴れて凍てついた春の日のことで、鳥たちは町の上を飛び回り、けたたましい鳴き声で町の権力者たちを寿いでいた。コロコラムスクの小鳥たちは、市民同様、権力の持ち主を心から愛していた。  昼には早々に、スタロレジームヌィ並木道の斜面を雪解け水が音を立てて流れ、雪の下から去年の草が頭をのぞかせていた。  しかし、町に熱狂的な気分を呼び起こしたのは、春の風でも、ミヤマガラスの鳴き声でも、ズブルヤ河がはやばや解けだそうとし始めたことでもなかった。町を熱狂させ、揺るがしたのは、ニキータ・プソフがもたらした知らせであった。 「温泉だ! 温泉だ!」ニキータは町の狂人たちを足でなぎ倒しながら通りを駆けていき、道々で窓を叩いては同胞たちの部屋へ駆け込んで大声でこう言ってまわった。「自分の目で見てみな!」  次々に質問が出されたが、それにはいっさい答えず、ニキータ・プソフは手をぶんぶん振り回して遠くへ駆け出していった。人は彼を追って走りだし、その群れはどんどん大きくなった。  もしも白いガウンを着たグロム医師が家から飛び出してきて行く手をさえぎらなかったら、好奇心に駆られた市民たちは、逆上したニキータを追って、まだどれほど駆けていったか知れなかった。 「ちょちょちょ!」グロム医師は言った。  そうして全員が停止した。ニキータは支離滅裂に「誓ってもいい」などと口走り、両手で自分の胸を叩いていた。 「うむ」医師は厳しく問いただした。「『教えておくれ、パレスチナの小枝よ』。何がどうしたんだね?」  グロム医師は詩の引用で飾り立てて話すのが好きであった 〔「教えておくれ、パレスチナの小枝よ」はレールモントフの詩の引用〕 。 「猟奇小路に温泉が湧いた」確信をこめてニキータが叫んだ。「自分の目で見てみな!」  そうして、驚きの叫びにたびたび遮られながらもニキータ・プソフがみなに言うには、酔っ払って猟奇小路にさまよいこんだ彼が地べたに寝ていたところ、何か熱いものが触れる感覚に目を覚ましたという。地面からまっすぐ吹き出してくるうす濁りの湯の中に自分が横...

連作短編『コロコラムスク市の尋常ならざる話』(1929)犬ぞり 全訳

イメージ
▷『コロコラムスク市の尋常ならざる話』と題されたイリフ&ペトロフによる連作短編の第9話。全訳。 ▷〔〕は訳注。 コメンタリーはこちら 。 ▷2025.1.12 改訳更新。 _______  たいてい昼の十二時が近づくと、コロコラムスクの紳士淑女は表に出て、凍てつく新鮮な空気を吸おうとする。とりたててすることもないので、市民たちは毎日外へ出て新鮮な空気をじっくり味わうことを日課としていた。  三月のはじめの金曜日、とりわけ家柄の良い人たちがメストコモフスカヤ大通りを行儀よくそぞろ歩いているところへ、チレンスカヤ広場から鈴の音が聞こえ、それから驚くような乗り物が大通りに飛び出してきた。  十二頭の犬に引かせたサモエド人の長いソリに、トナカイの毛皮外套にくるまって、小さく痩せた顔の青年がゆったりと乗っていたのである。  その犬ぞり一行の格好は、コロコラムスクの穏やかな気候にはあまりに珍奇に見え、自然な好奇心を抱いた市民たちは舗道に人垣をつくった。  見知らぬ旅人は、汗にまみれて走っている三列目左側の副え犬に何度もムチをあて、鋭い声でこう叫びつつ、通りを速いスピードで駆けていった。 「シャーリク、曲がってる! そうじゃない、シャーリク!」  他の犬たちも小言をくらっていた。 「おまえだぞ、ボービク! …ジューチカ、そうじゃない! …気をつけろッ!」  コロコラムスクの人びとは、神が何者を遣わしたのかわからないながらも、念のために「ウラー 〔万歳〕 !」と叫んだのであった。  この見知らぬ人物は、シベリア風の長い耳がついた毛皮の帽子をとって挨拶がわりに振ってみせ、それからビアホール「過去の声」のそばで、統制のとれていない犬たちを停めた。  五分もすると、犬ぞりを木につなぎ終え、旅人がビアホールに入ってきた。この酒場の壁には「テーブルクロスで手を拭かないで」という注意書きがかかっていたが、どのテーブルにもテーブルクロスなどかかっていなかった。 「何をお持ちしましょうか?」興奮のあまり声を震わせて店主がたずねた。 「沈黙を!」見知らぬ人物は大声で言った。そしてすぐさまビールを六本注文した。  これで、ビアホールにつめかけていたコロコラムスクの人には、自分たちが非凡な人物を相手にしていることがはっきりした。  そこで、大勢の中から行政の代表者が進みでて、声に献身的な様子をにじませつ...

連作短編『コロコラムスク市の尋常ならざる話』(1929)〈赤いオーバーシューズ、ガローシニク〉号 全訳

イメージ
▷『コロコラムスク市生活の尋常ならざる話』と題されたイリフ&ペトロフによる連作短編の第8話。全訳。 ▷ 第1話〈青い悪魔〉 の続編ともいえる作品。 ▷〔〕は訳注。 コメンタリーはこちら 。 ▷2025.1.11 改訳更新。 _______  凍てつく二月の未明、栄誉あるコロコラムスク市の住民は、不規則な射撃音に目を覚ました。  住民たちはワーレンキ 〔フェルトブーツ〕 をつっかけ、下着の上に何かをはおっただけで、一斉に表へ出た。射撃音に続いて今しがた鳴り出した警鐘の音が、不安をかきたてた。十字-抜擢教会が鳴らすけたたましい鐘の音を、キリスト顕現聖堂の鐘楼の低音が力強く支えていた。  思いがけない不安なことが起きるといつもそうであるように、市民はどちらの方角へ逃げるべきかを熟知していた。そうしてあっという間に、救世主-協同組合広場が人で埋め尽くされた。  当惑しきった無名商人の墓の前に、四人の徒歩警官と、長官のオトメジューエフ同志からなるコロコラムスク警察の全職員が立っていた。警官たちの銃はまだ煙を立てていた。オトメジューエフは拳銃を手に持ち、その銃口を乳白色の空に向けていた。 「誰に発砲してるんです?」ニキータ・プソフが人ごみに割り込みながら叫んだ。  ニキータは少し遅れてやってきたのだが、彼は、警備隊が着るような厚手の毛皮外套をひっかけてはいたものの、それがはだけ、泡立つビールジョッキを持った裸の女性のタトゥーが青々と彫りこまれた毛むくじゃらの胸がのぞいていて、誰に発砲しているかわからなければ、今にも心臓発作をおこしてしまいかねなかった。  しかし、オトメジューエフ長官は答えなかった。頭を上げ、低空の雪雲を鋭く見つめていた。  しだいに、群衆も広場の上空を飛行している気球に気がつきはじめた。それは、ネットに入った子供用のボールに似ていた。 「敵の飛行体に向けて…」オトメジューエフがはりさけるような声で号令をかけた。「隊列、射撃ッ!」  隊列は、目を細めて発砲した。 「着弾せず!」ニキータ・プソフは悔しそうに叫んだ。 「ふん、どっちみち、どこへも逃げていきゃしない! 楽勝さ!」  そうして彼は群衆たちと意見を交わしはじめた。 「飛行してる奴らに見覚えがあるだろう! あれはクリャトヴィア 〔『青い悪魔』参照〕 が、おれたちのコロコラムスクを襲撃しようとやって来たんだ。...

連作短編『コロコラムスク市の尋常ならざる話』(1929)黄金の詰め物 全訳

▷『コロコラムスク市の尋常ならざる話』と題されたイリフ&ペトロフによる連作短編の第7話。全訳。 ▷ 第1話〈青い悪魔〉はこちら 。 ▷〔〕は訳注。 コメンタリーはこちら 。 ▷2025.1.10 改訳更新。 _______  市民エフトゥシェフスキイが新しく飼いはじめためんどりは、まる一週間、卵を産まなかった。ところが水曜の午後八時四十分になって、そのめんどりが金の卵を産んだ。  まったくもって不自然なこのできごとは、次のようにして起きた。  その日、エフトゥシェフスキイはいつものように朝から忙しかった。縦笛を商ったり、ささやかな菜園を耕したり、偽協同組合「個人労働」の議長ムッシュ・ホントーノフの注文で用意したネズミ取りを仕掛けたり解いたりしていた。  昼食をとったあと、この年老いた笛売り男は隣の庭に忍びこみ、煉瓦用の藁肥やしをとろうとして見つかった。棒切れを投げつけられ、それが命中した。とっぷり日が暮れるまで、エフトゥシェフスキイは垣根のところに立って隣人に小言を言いつづけた。  一日がすっかり無駄になってしまった。生きるのが不快なことに思われた。この日はだれも縦笛を買ってくれなかったし、燃料の補給は間に合わず、めんどりも卵を産んでいなかった。  そういう悲しいもの思いにふけっているエフトゥシェフスキイを見つけたのが、ムッシュ・ホントーノフとマダム・ホントーノフだった。夫妻の用事はネズミ取りのことであった。月の出ない晩にわざわざやってきたわけは、エフトゥシェフスキイにやらせているネズミ取りの用意を、表向きは自分たちがしていることになっているからだった。 「知っておいてほしいのですが、ムッシュ・エフトゥシェフスキイ」と偽協同組合の議長は言った。「あなたのネズミ取りには大きな欠点があります」 「欠点だしマイナスです!」マダム・ホントーノフが咎めるように釘を刺した。 「そうです!」と偽議長が続ける。「いささか動作しすぎますな。お客さんがたは怒っています。ビビンさんのお宅でうっかりひっかけてしまったところ、そのネズミ取りは長いこと部屋を跳ねまわったあげく、窓ガラスを叩き割って、井戸へ落ちました」 「落ちて、沈みました」と議長夫人が付け足した。  エフトゥシェフスキイの気持ちはよりいっそうふさいだ。  ふいに、めんどりがうろついていた部屋の隅で、くぐもった音が響き、バタバタ...

連作短編『コロコラムスク市の尋常ならざる話』(1929)純血のプロレタリア 全訳

イメージ
▷『コロコラムスク市の尋常ならざる話』と題されたイリフ&ペトロフによる連作短編の第6話。全訳。 ▷ 第1話〈青い悪魔〉はこちら 。 ▷〔〕は訳注。 コメンタリーはこちら 。 ▷2025.1.7 改訳更新。 _______  コロコラムスクの人に、彼らの栄誉ある町にはプロレタリアがいないなどと言うと、冗談ぬきで腹を立てたものである。 「いないだって?」コロコラムスクの人たちはわめき立てる。「フズノーソフがいるだろうが! 我らがドシフェイ・フズノーソフが! まったく、どこぞの商売人なんかとは違うぞ。やつは純血のプロレタリアだ」  町じゅうがドシフェイ・フズノーソフを誇りに思っていたが、ただ一人、ドシフェイ・フズノーソフ本人はそう思っていなかった。商売が不調だったのだ。  フズノーソフは街頭の靴直し屋であった。ズブルヤ河の対岸地区の栓抜き通りに住み、市の立つ日にはプリヴォーズニィ市場で商売をしていた。  市の立つ日が少なかったせいかもしれないし、コロコラムスクの人びとがあまり動こうとせず、靴をすり減らすことがほとんどなかったせいかもしれないが、フズノーソフの実入りは乏しく、ひどく困窮していた。 「プロレタリアだよ、おれは。たしかにプロレタリアだ」と彼は陰気に言うのだった。「ありがたいことに混じりっけなしだ。どこぞの混血とは違う。だけどそれが何になる? 酔っぱらうこともできやしない!」  そういう気分のある日、フズノーソフはムッシュ・ホントーノフの部屋にふらりと入りこんだ。彼はただ、胸のうちを聞いてもらいたかったのだ。この町では、そういうことをするなら、分別のある偽協同組合の議長に話すのがいちばんだ、というのが、みなの一致するところであった。  ホントーノフは、胸のところにクリンゲル 〔8の字パン〕 が刺繍されたゲイシャ風ルバーシカ 〔シャツ〕 を着て、食事のテーブルについていた。彼の前にはペイザンヌ 〔田舎風〕 スープが湯気を立て、スープの中にはぶ厚い肉の塊が悠然と浮かんでいた。ずんぐりしたカラフェ 〔水差し〕 に入ったウォッカが、錫と氷の色を反射して光っていた。 「こちらに招待しちゃもらえませんか、同志ホントーノフ」部屋に入りながら、街頭の靴直し屋は言った。「なんたって、おれはどこぞの混血でも雑種でもありません」 「もちろんですよ!」と偽議長は答えた。「お座りください、...

連作短編『コロコラムスク市の尋常ならざる話』(1929)おそろしい夢 全訳

イメージ
▷『コロコラムスク市の尋常ならざる話』と題されたイリフ&ペトロフによる連作短編の第5話。全訳。 ▷ 第1話〈青い悪魔〉はこちら 。 ▷〔〕は訳注。 コメンタリーはこちら 。 ▷2025.1.6 改訳更新。 _______  元はちょっとした小金持ちで、今は冴えないコロコラムスク市民のヨシフ・イワーノヴィチ・ザヴィトコフが、町のもっとも興味深い歴史の一ページを自らが書くことになろうとは、本人はおろか、彼を知る多くの人にも思いがけないことだった。  といっても、ザヴィトコフはけっして要領のいいタイプではなかった。しかしコロコラムスクの人はみなそんなものだ。最もおとなしいコロコラムスクの人でさえ、ある瞬間には向こう見ずで突拍子もない振る舞いをしでかして、コロコラムスクの名を高めることに一役買ってしまいかねないところがあった。  ザヴィトコフの生活は終始なでつけたように平坦だった。彼の仕事は、誰もが驚く淀んだ色の靴墨「アフリカ」を煮ることで、ありあまる時間をもてあますと、ビアホール「過去の声」で時を過ごした。  靴墨の匂いが有害な作用をもたらしたのかもしれないし、黒ビールが彼の意識を曇らせたのかもしれないが、いずれにせよ、ザヴィトコフは、日曜の深夜から月曜にかけてある夢を見た。そしてそれ以降、彼は完全な混乱状態に陥ってしまった。  彼の夢というのは、町の全員一致通りと満場一致通りの交わるところで、革のジャケットに革のパンツ、革の帽子といういでたちの、三人の共産党員に出くわしたというものだった。 「もちろん、逃げだしたかったさ」とザヴィトコフは隣人たちに語って聞かせた。「ところが奴ら、道の真ん中に陣取って、おれに深々とお辞儀をするもんだから」 「党員がかい?」隣人たちは大袈裟な声を出した。 「党員がだよ! 直立してお辞儀するんだ。直立してお辞儀だよ」 「いいか、ザヴィトコフ」と隣人たちは言った。「そういうことがあったからっておまえ、特別扱いはされねえぞ」 「おれが夢に見ただけのことじゃないか!」ザヴィトコフは笑って反論した。 「夢だからって何だ。そういうことはあるもんだ… いいか、ザヴィトコフ、なにも起こらないといいがな!」  そうして、隣人たちは靴墨職人から用心深く距離を取った。  ザヴィトコフは、靴墨「アフリカ」を煮るのもやめて、まる一日町をほっつき歩き、夢で見たことにつ...