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ヴォードヴィル『強い感情』(1933年)全訳

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▷あるカップルの結婚披露宴で起きるドタバタを描いた作品の全訳。 ▷チェーホフの『結婚披露宴』(1890年)を踏まえていると考えられる。 ▷〔〕内は訳注、もしくは読みがな。 _______ 強い感情 ひと幕のヴォードヴィル _______ 登場人物 スターシク・マルホツキー     花婿 ナータ・マルホツカヤ=リフシッツ     花嫁 リフシッツ     ナータの最初の夫 リータ     ナータの妹 ママ チュラーノフ  青二才の青年 ベルナルドフ     市の作家委員会メンバー マルホツキー     スターシクの父親 スプラヴチェンコ     ブリダン注射で治療をするドクトル アントン・パーヴロヴィチ     客 レフ・ニコラエヴィチ     客 セゲディリヤ・マルコヴナ     客 青年     客 若い女の子たち     客 ミスター・ピップ     身なりの良い外国人 _______ (モスクワの一室。結婚披露宴の準備が進行中。テーブルのあたりで母親とリータがあくせく動き回っている) リータ     まちがいなく、ウォッカが足りない。15人に3本だなんて! ママ、こんなのありえない! ママ     だって リータ、全員が飲むわけじゃないでしょ。 リータ    ママ! 間違いなく全員飲むから。ベルナルドフは飲むし、チュラーノフは飲むし、セゲディリヤ・マルコヴナは飲むし、ドクトルだって、たぶん飲むし… ママ     えっ、ドクトルも来るの? なんだか、いかがわしい人じゃない… あんなちゃんとしないやり方で治療をして、おそろしいブリダンとかいう注射… リータ    いいじゃない、ママ! 今はみんなあれを注射するの! つまり、ドクトルはまず飲むだろうね。レフ・ニコラエヴィチもアントン・パーヴロヴィチも獣並みに飲むし。スターシクも飲むし… ママ     (恐...

長編『十二の椅子』(1928年)第1章 翻訳ノート

▷長編 『十二の椅子』(1928)第1章の翻訳 で正直わからなかった箇所をメモとして残す記事 ▷第1章のエピソードについての個人的な解釈・見解もメモとして残す _______ ?   морозный с жилкой стакан  ・・・毎朝彼は、葉脈の模様のついた 磨りガラスの コップで、クラヴジヤ・イヴァーノヴナが出してくれた温かいミルクを一杯飲むと、・・・ с жилкой … 葉脈(жилка)入りの морозный  стакан … 字義通りには「とても冷たい」グラスだろうか。ただ、このグラスには温かいミルクが入っている。温かい液体が入ったグラスが「冷たい」ことは普通ない。 ガラスなどに霜の結晶が付くようすを表した морозный узор (霜模様)という表現があって、その中には葉脈のように見える模様もあることから、そうした模様がついたグラスなのかもしれない、と一旦考えておく。 先行訳 Anne Fisher(2011):“a frosted, veined glass” 江川卓(1961):「ひび割れコップ」 _______ ?  Драманж! ・・・まだ暗くて、寒い。凍えて震えが止まらねえ… そのとき、俺の荷物からポルシーシキ〔ハーフボトル〕が出てきた。飲み干したさ。俺たちの感じでは… まだ足りない。 ブルブル! ・・・ мандраж(俗語。おののき、震えること)の倒語(逆さ読み)なんだろうか。 ман-дра-ж の順序を入れ替え、дра-ман-жとしたのなら、日本語でも「ぶるっちまう」→「るぶっちまう」などとしたほうがいいのかもしれないが、何だか古臭い日本語に感じられてしまうし、一読で意味が取りづらいし、そうしたことによって、この部分が悪目立ちしてしまうのは避けたいので「ブルブル」とした。 先行訳 Anne Fisher(2011):“We're shaking, we're roaring–horrors!” 江川卓(1961):訳なし(この翻訳が参照している底本には、この場面自体が含まれていない) _______ ?  N町が理容室と葬儀社だらけの理由 ある地方の町Nには、たくさんの理容室と葬儀社があった。たくさんありすぎて、この町の住民が生まれてくるのは、顔を剃ってもらい、...