▷『コロコラムスク市の尋常ならざる話』の各エピソードの補足や説明。 ▷本文へは各エピソードのタイトルにリンクあり。 _______ 1. 青い悪魔 …「やつを知ってるぞ」誰かの若い声がした。「あれは クリャトヴィア 国の大使だよ。… クリャトビア ( Клятвия ):架空の国名。ラトビアがモデルだという説がある。 _______ …モスクワへの出稼ぎには、あらゆる者が手をのばした。………とりわけこの事業に夢中になったのは、 青い上衣を着た 辻馬車の御者らだった。… 青い上衣を着た ( в синих жупанах ):ロシアには「財布は空なのにカフタンは青い」ということわざがあり「見栄っ張り」を意味する。色物のコートは上等品の比喩 (戸辺又方『ロシアの言語と文化』1996年、ナウカ、95ページ) 。青い上衣を着た=服にお金をかける伊達者という含意だろうか(服にお金がかかるため出稼ぎに夢中になる)。 _______ …最初の厳寒が襲うころ、コロコラムスクからモスクワへ向けて、 偽協同組合「個人労働」議長のムッシュ・ホントーノフ が、足取り重く出発した。… 偽協同組合 ( лжеартель ):実際にこの時代のソヴィエトには、偽の協同組合というものがあり、それをかくれみのにして私腹を肥やす商人がいたらしい。「ネップ時代にはあらゆるにせの協同組合が無数にあった。それらが、繁盛していた商店を駆逐していった」(チュコフスキー)。イリフ&ペトロフは再三こうした「偽の⚪︎⚪︎」の存在を指摘していて、偽協同組合については後の作品『黄金の仔牛』(1931年)第5章でも再度言及している。 (参考: Щеглов. Романы Ильфа и Петрова. Спутник читателя. СПб. 2009. C393 ) ムッシュ・ホントーノフ ( мосье Подлинник ):原文を音読みするとムッシュ・ポードリンニク。「ポードリンニク」とは普通名詞でもあり、「原本、原画、オリジナル」を意味する。つまり「偽」の協同組合をやっている男の名前が「本物」を意味するところに皮肉があり、おかしさがある。音訳のムッシュ・ポードリンニクではそのニュアンスが伝わらないので、「嘘」と対になる「本当」から発想してムッシュ・ホントーノフとした。 2. 南米からの客 …そ...