連作短編『コロコラムスク市の尋常ならざる話』(1929)黄金の詰め物 全訳
▷『コロコラムスク市の尋常ならざる話』と題されたイリフ&ペトロフによる連作短編の第7話。全訳。 ▷ 第1話〈青い悪魔〉はこちら 。 ▷〔〕は訳注。 コメンタリーはこちら 。 ▷2025.1.10 改訳更新。 _______ 市民エフトゥシェフスキイが新しく飼いはじめためんどりは、まる一週間、卵を産まなかった。ところが水曜の午後八時四十分になって、そのめんどりが金の卵を産んだ。 まったくもって不自然なこのできごとは、次のようにして起きた。 その日、エフトゥシェフスキイはいつものように朝から忙しかった。縦笛を商ったり、ささやかな菜園を耕したり、偽協同組合「個人労働」の議長ムッシュ・ホントーノフの注文で用意したネズミ取りを仕掛けたり解いたりしていた。 昼食をとったあと、この年老いた笛売り男は隣の庭に忍びこみ、煉瓦用の藁肥やしをとろうとして見つかった。棒切れを投げつけられ、それが命中した。とっぷり日が暮れるまで、エフトゥシェフスキイは垣根のところに立って隣人に小言を言いつづけた。 一日がすっかり無駄になってしまった。生きるのが不快なことに思われた。この日はだれも縦笛を買ってくれなかったし、燃料の補給は間に合わず、めんどりも卵を産んでいなかった。 そういう悲しいもの思いにふけっているエフトゥシェフスキイを見つけたのが、ムッシュ・ホントーノフとマダム・ホントーノフだった。夫妻の用事はネズミ取りのことであった。月の出ない晩にわざわざやってきたわけは、エフトゥシェフスキイにやらせているネズミ取りの用意を、表向きは自分たちがしていることになっているからだった。 「知っておいてほしいのですが、ムッシュ・エフトゥシェフスキイ」と偽協同組合の議長は言った。「あなたのネズミ取りには大きな欠点があります」 「欠点だしマイナスです!」マダム・ホントーノフが咎めるように釘を刺した。 「そうです!」と偽議長が続ける。「いささか動作しすぎますな。お客さんがたは怒っています。ビビンさんのお宅でうっかりひっかけてしまったところ、そのネズミ取りは長いこと部屋を跳ねまわったあげく、窓ガラスを叩き割って、井戸へ落ちました」 「落ちて、沈みました」と議長夫人が付け足した。 エフトゥシェフスキイの気持ちはよりいっそうふさいだ。 ふいに、めんどりがうろついていた部屋の隅で、くぐもった音が響き、バタバタ...