連作短編『コロコラムスク市の尋常ならざる話』(1929)純血のプロレタリア 全訳
▷『コロコラムスク市の尋常ならざる話』と題されたイリフ&ペトロフによる連作短編の第6話。全訳。 ▷ 第1話〈青い悪魔〉はこちら 。 ▷〔〕は訳注。 コメンタリーはこちら 。 ▷2025.1.7 改訳更新。 _______ コロコラムスクの人に、彼らの栄誉ある町にはプロレタリアがいないなどと言うと、冗談ぬきで腹を立てたものである。 「いないだって?」コロコラムスクの人たちはわめき立てる。「フズノーソフがいるだろうが! 我らがドシフェイ・フズノーソフが! まったく、どこぞの商売人なんかとは違うぞ。やつは純血のプロレタリアだ」 町じゅうがドシフェイ・フズノーソフを誇りに思っていたが、ただ一人、ドシフェイ・フズノーソフ本人はそう思っていなかった。商売が不調だったのだ。 フズノーソフは街頭の靴直し屋であった。ズブルヤ河の対岸地区の栓抜き通りに住み、市の立つ日にはプリヴォーズニィ市場で商売をしていた。 市の立つ日が少なかったせいかもしれないし、コロコラムスクの人びとがあまり動こうとせず、靴をすり減らすことがほとんどなかったせいかもしれないが、フズノーソフの実入りは乏しく、ひどく困窮していた。 「プロレタリアだよ、おれは。たしかにプロレタリアだ」と彼は陰気に言うのだった。「ありがたいことに混じりっけなしだ。どこぞの混血とは違う。だけどそれが何になる? 酔っぱらうこともできやしない!」 そういう気分のある日、フズノーソフはムッシュ・ホントーノフの部屋にふらりと入りこんだ。彼はただ、胸のうちを聞いてもらいたかったのだ。この町では、そういうことをするなら、分別のある偽協同組合の議長に話すのがいちばんだ、というのが、みなの一致するところであった。 ホントーノフは、胸のところにクリンゲル 〔8の字パン〕 が刺繍されたゲイシャ風ルバーシカ 〔シャツ〕 を着て、食事のテーブルについていた。彼の前にはペイザンヌ 〔田舎風〕 スープが湯気を立て、スープの中にはぶ厚い肉の塊が悠然と浮かんでいた。ずんぐりしたカラフェ 〔水差し〕 に入ったウォッカが、錫と氷の色を反射して光っていた。 「こちらに招待しちゃもらえませんか、同志ホントーノフ」部屋に入りながら、街頭の靴直し屋は言った。「なんたって、おれはどこぞの混血でも雑種でもありません」 「もちろんですよ!」と偽議長は答えた。「お座りください、...