ヴォードヴィル『強い感情』(1933年)翻訳ノート
▷『強い感情』の中に出てくる音楽の音源紹介、訳注の補足、翻訳に迷った箇所の説明(言い訳)など。 ▷本編は こちら レオニード・ウチョーソフの『さよなら』 チュラーノフがリータをなだめようと歌うウチョーソフの歌。「さよなら」という歌詞に反して明るい曲調。 原詩は、Пока, Пока, Уж ночь недалека. Пока,... 本来のПокаは「じゃあまた」くらいのニュアンスで、「さよなら」では強すぎるのかもしれないが、チュラーノフが Пока〜♪と歌ったあと、リータがすぐに同じПокаという単語を使って、 Пока вы не приведете иностранца, я с вами не буду разговаривать!(あなたが外国人を連れてこないうちは口聞いてやらない)と突き放しているので、同じ言葉 Покаで受けていることがわかるように、どちらも「さよなら」で統一して訳してみた。 チュラーノフ ・・・想像がつくかい? 披露宴のウチョーソフ!(おずおずと歌い出す)「さよー…ならー… 夜はすぐそこー さよー…ならー…」 リータ さようなら、 外国人を連れて来ないうちは、あなたとは口を聞かない。 ちなみに上記のYouTube動画に写っているのは、ポータブル蓄音機 патефон。作中でベルナルドフが持ち込む蓄音機は、このようなタイプだったと思われる。 レオンカヴァッロのオペラ『道化師』のアリア『衣装をつけろ』 チュラーノフが、リータのために何かをしようとするとき、己を奮い立たせるために歌う「笑うんだ、道化師よ! お前の愛の終焉に!」は、オペラ『道化師』のアリアの一節。 イタリア後原文では ridi, Pagliaccio, sul tuo amore infranto! ロシア語では Смейся, паяц, над разбитой любовью!(Youtube動画はロシア語。『強い感情』でチュラーノフが歌うのもロシア語で) このアリアは、妻の浮気を知って怒りと悲しみにくれる道化師が、そんなときであっても道化師というのは、衣装をつけて人前に出、人を笑わせなくてはいけないのだ、だからどんなに辛くても笑うんだ、と己を奮いたたせる内容で、チュラーノフが立たされた状況ともシンクロしている。 ちなみにこのアリア『衣装をつけろ』を録音したレ...