ブルガーコフ『運命の卵』のなかのオデッサ言葉
ブルガーコフ『運命の卵』(1924年)の中に、エヴゲーニイ・ペトロフがモデルの新聞記者が登場する。次の場面に登場するブロンスキイという人物で、変なロシア語を話すということにされている。この「変なロシア語」を検討するための記事。 『運命の卵』あらすじ: 1928年のモスクワで、世界的な動物学者ペルシコフ教授が発見した奇妙な光線によって動物が異常増殖したり次々に死んだりする事件が起きる。最初はカエル、次はニワトリ…巷が異変に気づいて騒ぎ始めるのと前後して、事件を嗅ぎつけた記者や当局関係者など、怪しい人間が次々とペルシコフ教授を訪問しはじめる。 _______ 〔ペルシコフ教授が〕 いくぶん好奇心すら覚えて窓の外を覗いてみると、アリフレッド・ブロンスキイが歩道に立っているのが目に入った。教授はさきの尖った帽子と手帳から、その男が肩書のたくさんある名刺の持ち主であったことをすぐに思い出した。ブロンスキイは愛想よく、恭しく窓に向かってお辞儀した。 (中略) 「 教授、 ほんの二分ばかり お邪魔させていただきたいのですが」ブロンスキイは声を張りあげて、歩道から話しだした。「ほんのひとつ、純粋に動物学的な質問をさせていただきたいのですが。よろしいでしょうか?」 「 言ってみたまえ」そっけなく、皮肉な調子でペルシコフは答えて、〈それでもやはり、この悪党には、どことなくアメリカ的な調子のよさがある〉と思った。 「 教授、 鶏のために どういうご意見がありますか?」ブロンスキイは両手を口に当てて叫んだ。 ペルシコフは驚いてしまった。窓台に腰をおろしたが、やがてそこから降りると、ベルを押し、窓のほうを指で示しながらどなった。 「 パンクラート、歩道に立っているあの男をお通ししなさい」 ブロンスキイが研究室に現れたとき、ペルシコフはきわめて愛想よく歓迎し、「おかけください」と椅子をすすめたほどだった。 するとブロンスキイは、感激のあまり満面に笑みをたたえながら、回転椅子に腰をおろした。 「どうか説明してほしい」とペルシコフは口を切った。「新聞に書いたのはあなたですね?」 「確かに、そのとおりでございます」とブロンスキイは丁寧に答えた。 「それにしては、どうも理解できないのだがね、ロシア語を満足に話すことさえできないのに、どういうふうにして書くことができるのですかね。《 ほんの二分ばか...