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短編『戸籍登録員の過去』(1929年)コメンタリー

▷項目は随時追加(最終更新:2022.8.16) ▷本編は こちら 『戸籍登録員の過去』 1929年、雑誌『30日』第10号掲載。『十二の椅子』の連載終了後、独立した短編として発表された。掲載時、編集部によって「『十二の椅子』の未発表の章である」という注がほどこされていた。著者らはこの章を『十二の椅子』の刊行物に含めず、生前に再掲載されることもなかった。 2016年に刊行された『著者版 十二の椅子 ※ 』には、本編の5章として(オスタップ・ベンデルの登場の直前に)この短編が組み込まれている。( ※ イリヤ・イリフの娘であるアレクサンドリア・イリフが編集し、原稿、タイプ原稿、雑誌の発表分なども含めた版) マースレニツァの木曜日 マースレニツァは春を迎える民間儀礼的な行事で、一週間にわたってつづく。宗教的な精進に入る直前の一週間にあたるため、精進のあいだにできないことをやりだめておく(食いだめ、遊びだめ)期間でもあった。そうしたお祭り騒ぎ的雰囲気が頂点に達するのがマースレニッツァの木曜日で、別名「どんちゃん騒ぎの日(Разгул, Разгуляй)」「分かれ目の日(Перелом)」と呼ばれていた。 小説の冒頭のできごとは、こうした日に起きたということを念頭におく必要がある。 貴族団長 貴族会(дворянское собрание)を主宰する人であり、貴族としての義務をおこたっている会員がいないかを監督する立場の人。3年にいちど開かれる貴族会の集まりで、選挙によって選ばれる。郡の貴族団長のほかに、県の貴族団長もおり、県の貴族団長はかずかずの公共事業や地方自治体をも掌握する力をもっていた。トルストイ『アンナ・カレーニナ』には、貴族団長のこみいった選挙のようすがくわしく描かれている(第6編26-31)。 デンマークの王子 シェークスピアの『ハムレット』を連想させるペンネーム。同じペンネームの人物が『十二の椅子』本編13章「息をはずませてください、興奮してるんだから!」に登場するが、同一人物かどうかは不明。 王子の機転(「どもる」と「口にする」) 特別市長のことば「こういうことはもうこれ以上口にしないことをおすすめします」には、「どもる」と同じ語(заикаться)が、「なにかについてそれとなく言う」という意味で使われている。「ヴォロビヤニノフ氏の所業について記事でほの...