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短編『戸籍登録員の過去』(1929年)訳 1/5

▷イリフ&ペトロフの代表作『十二の椅子』の外伝的作品 ▷『十二の椅子』の主人公ヴォロビヤニノフの過去 ▷本文中の緑字は訳注あり(クリックで コメンタリーページ へ遷移)  _______  一九一三年のマースレニツァの週に、スタルゴロドの社交界でその最先端をいく人々をざわつかせる事件が起こった。   木曜の晩 、ショーレストラン〈サルヴェ〉の華やかに飾りつけられたホールでは、つぎのような大規模プログラムが催されていた。 世界的に有名な曲芸師一座 十人のアラブ人! 二十世紀最大の鬼才 スタンス 複雑怪奇!空前絶後!! スタンスは謎の男! おどろくべきスペインの軽業師 イナス! ブレジーナ    パリの劇場フォリー・ベルジェールの歌姫!    ドラフィール姉妹とその他の出しもの  ドラフィール姉妹が(三人だった)、ヴェルサイユの庭園を背景に描いた極小の舞台を動きまわり、ヴォルガなまりでこう歌っていた。    あなたの目の前を小鳥のように    そこここ軽く飛びまわるの    群衆はわたしたちに拍手かっさい    貴族のおえらがたもみんな大喜びよ  この一節を歌いおえると、三人姉妹はぶるっと体をふるわせ、手をとりあって、しだいに強まるピアノの伴奏にあわせ、あらんかぎりの声でリフレインを歌いはじめた。    わたしたちは飛びまわる    涙なんか知らぬげに    わたしたちのこと、みんなが知っている    賢い人も、おばかさんも  ドラフィール・トリオの懸命な踊りと魅惑的なほほえみは、スタルゴロド社会の最先端をいくグループにはなんの印象も与えなかった。そのグループとは、ショーレストランの中では、市議会議員のチャルーシニコフとそのいとこの女性、クリーム色のドレスを着たいとこをふたり連れてほろ酔い気分で座っている第一級商人のアンゲロフ、役所づき建築士、町医者、三人の地主、それよりは劣るがそれなりの社会的地位をもち、いとこの女性を連れていたり、連れていなかったりする多くの人々、といった面々で構成されていたが、彼らはドラフィール・トリオに陰気な拍手を送りつつ、「家族のハレの夕食、メゾン・マムのシャンパン(グリーンリボン)つき、一人につき二ルーブル」の喜びにふたたび身をゆだねた。  テーブルの上の白い金属でできた...